ユーザー体験と分散化のトレードオフ

ここでは、ユーザー体験の重要な要素と、それが分散化とどのようにトレードオフするかをみていきましょう。私たちは一般的な原則に焦点を当てていますが、各カテゴリーやビジネスドメインの詳細は異なる場合があります。

初回ユーザー体験(FTUE)

Facebookといえば、プロダクト主導による成長の先駆者です。彼らは、ユーザーが「10日間で7人の友人」を得ることができればプロダクトを使い続けるという傾向を見つけました。優れたオンボーディングと初回ユーザー体験を構築する方法については多くのことが書かれています。

Web2アプリ攻略の台本は皆が知るところでしょう。

  1. Facebook、Google、Truecallerなどからのワンクリックでシームレスなサインイン・サインアップ体験。
  2. ユーザーのソーシャルグラフ(Twitter、アドレス帳、Facebookの友人など)へのアクセスを要求し、彼らが好むであろうコンテンツ/プロダクト情報に基づいた推測
  3. プロダクトに特化したいくつかの明確な情報を得るために質問をする(好きな歌、映画、話題など)
  4. 人々が空白の画面に遭遇しないように、初回起動時の体験を設計する

Web3アプリは、「ウォレットを接続する」ということに夢中になりがちで、ユーザーの他のアイデンティティ部分を無視することが多いです。分散型取引所(DEX: Decentralized Exchange)にウォレットを接続するだけでよかった経験の影響かもしれません。

かつては、DEXを利用する際、ユーザーがウォレットを接続するだけで簡単に取引ができました。DEXを使うためには、ユーザーが自分のウォレット(例えばMetaMaskなど)を接続するだけでよく、そのウォレット内の暗号資産を直接取引に使用できました。このため、特別なアカウント登録や個人情報の入力なしに、取引ができたのです。

この経験から、開発者は「ウォレットを接続するだけでユーザーは満足する」という考えを持ちがちです。しかし、実際には多くのユーザーがウォレットの使い方に慣れておらず、またデジタル活動の多くはウォレットの外で行われているため、この考え方では不十分です。

多くのユーザーはまだセルフカストディ(自己管理)のウォレットを操作できていません。また、私たちのデジタル活動の大部分はウォレットの外にあります。そのギャップを埋めるのはユーザーではなく、あなたのプロダクトの責任です。

以下はWeb3プロダクトがギャップを埋める方法のいくつかです。


1:ギャップを埋める

顧客が既存の製品から必要なデータを取り込めるようにする。これは、Web2企業が提供するAPIを使って連携する必要があります。例えば、Contextというツールを使えば、Twitterの友達を見つけてフォローすることができます。また、ユーザーが利用する他のサービス(DiscordやTelegramなど)とも連携させます。

FRIのようなプロジェクトは、これを実現するための基盤をすでに整えています。彼らはプラットフォームのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用し、ユーザーがデータをNFT(デジタル資産)としてエクスポートしたり、ライセンス化したりできるようにしています。これは簡単なことではありません。各プラットフォームと緊密に連携しなければならず、プラットフォームによってはサービスが停止されるリスクもあります。

それでも、彼らはユーザーにとって本当に価値のあるものを作り上げていると私たちは考えています。それは、既存のアイデンティティを新しいデジタル世界に移す能力です。以前の記事でも彼らについて紹介しました。

2:オンランプとガスレス取り引き

本当にWeb3に新しいユーザーを迎え入れたいのであれば、ほとんどのユーザーがウォレットやガス代を支払うためのトークンを持っていないという現実を受け入れる必要があります。熱心なユーザーには、シードフレーズ(秘密鍵)を書き留める手順を教えることはできるかもしれません。しかし、ユーザーに取引所に行って「ガス代」に相当するトークンを購入させる手順(たとえ金額が非常に小さいものであっても)は、受け入れがたいユーザー体験です。

例えば、アプリにはユーザーが慣れている簡単な支払い方法を取り入れるべきです。Rush Gamingは、法定通貨(普通のお金)での取引を可能にすることで、初めてクリプトを使う人たちの負担を減らしています。また、アプリ内に自己管理できるウォレット(例えばStepNのような)を作成し、ユーザーが十分な価値を感じるまではガス代を無料にする方法もあります。例えば、CandyPayというプロジェクトがそのような方法を模索しています。

3:オンボーディングのためのウォレット

誰かがアプリにWeb3ウォレットを接続すると、その人のWeb3での活動の一部をあなたに見せてくれます。例えば、その人が持っているNFTコレクションや他のウォレット、トークンなどを見ることができます。これらの情報は、あなたのアプリをよりユーザーにとって関連性のあるものにするために役立ちます。
しかし、実際にこれを行っているアプリは、私が知る限りではcontext.appだけです。このアプリは私のウォレットを読み取り、私がすでに持っているNFTに基づいて特定の人々やコレクションをフォローするように提案しました。そして、他の2人と一緒にコレクションを私に紹介してくれました。

Sliseは、ウェイティングリストにサインアップするウォレットを分析して、クリエーターやコミュニティによるターゲティングを改善することを目的としたプロダクトを提出しました。彼らはこれを応用し、様々なプロダクトにオンボーディング・アズ・ア・サービスを提供することができます。

マジックモーメント

Web2ではよく意識されているが、Web3では無視されがちなのがマジックモーメントです。それは、ユーザーが初めてプロダクトの価値を体験する瞬間です。ボタンを押した後にUberが現れる初めての瞬間、初めてのTinderでのデート、フィードで友人の投稿を初めて見た時、初めてリツイートされた時などです。

これは、数ある選択肢の中からプロダクトを継続して使う理由を人々に与えます。人々が一つのプロダクトに注意を注ぐ時間が短くなる中、できるだけ早く、少ない障壁で提供することがさらに重要になります。素晴らしいオンボーディングを構築することは必要ですが、人々をマジックモーメントに導くには不十分です。

ほとんどのクリプトアプリはクリエイターとファンとの「直接的な」関係を可能にすることに焦点を当てていますが、これらの関係を可能にする良いデフォルトをデザインすることの重要性を忘れています。または、「仲介者」と見なされることへの恐れが、ディスカバリー体験のキュレーションを妨げているのかもしれません。その結果、人々はプロダクトの真の価値を体験する前に、無数の空白の画面、スパム、認知的負荷を突破しなければなりません。

最近、Farcasterを試してみました。彼らが最初に行ったことは、40人のユーザーを自動的にフォローするオプションを私に与えたことでした。これらのアカウントがどのように選ばれたかは全くわかりません。しかし、アプリを使い始めて30分以内に、私はさらに16のアカウントをフォローし、22のアカウントにフォローされ、5つのコンテンツを投稿しました。アプリのタブ(発見、検索、フィード)のどれも空白にはなりませんでした。

消費者向けの製品を作ったことがある人なら誰でも、これは基本中の基本だと言えるでしょう。それなのに、Web3の製品は分散型やピアツーピアという考え方のために、使いやすさを犠牲にしているようです。消費者は製品が分散型であることに価値を感じていないことを理解する必要があります。

※Superteamのブログ ”Stop Building for Crypto Twitter”(2022年10月9日公開)を日本語に翻訳・加筆編集したモノです。

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